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野づらは星あかり

二月、梅が咲いた。
四月、桜が散った。
六月、麦が色づいた。
八月、稲が穂孕んだ。
十月、麦が播かれた。
十二月、麦が茎立ちはじめた・・・・。

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あらすじ
終戦、そして夫(要吉)の復員から始まり、終戦直後の一農村の貧しくても笑いの絶えない暮らしぶりを書いたホームドラマ風な作品。それは終戦から朝鮮動乱が始まる頃迄の5年間ほどの物語であるが、さり気なく書き綴っている中に、一章を読むごとに、春夏秋冬季節の移り変わりや時勢の変化、農村の暮らしぶりや農業の仕組が着実に変わってゆく様が見事に描かれている。
特に、終戦直後の稲敷台地の農村の生活模様を知る上で、欠かすことの出来ない至宝の小説となっている。

( )内は章の表題  文中の青色は原文をそのまま引用

佐貫駅(トンボ竿)
要吉は竜鉄に乗りつぐ人たちを暫くの間、ただぼんやりと眺めていた。するうち、二輌連結の竜鉄は、ボーッと汽笛を鳴らせて動きはじめた。あとは常磐線の上りを待つらしい男女十五、六人。年齢はまちまちながら、みな申し合わせたように食糧らしい大荷物を背負ったり、抱えたり------。

 要吉は無事ふるさとの佐貫駅におりたったのだが、そのまま家に帰る勇気がなかった。妻のなみは果たして自分を待っていてくれるだろうか。一人で田畑を切盛りしたのだろうな。子供たちは元気に育っているだろうか。村の人々はみんな達者だろうか。いろんな思いが脳裏を去来する。戦争とは言え、暫く家を空けたことへの不安はつのるばかりだった。
 ぼんやりと、竜鉄へ乗換える人たちを見ている要吉。当時の佐貫駅舎は、駅の壁に木製のベンチが造り付けられていて奥行きがあって、内部は薄暗く、駅の中から、竜鉄側に明るく広がる田園風景を見ることが出来た。おそらく、住井すゑはそんな佐貫駅の雰囲気に愛着を感じていたのだろう。彼女の代表作「向い風」では、主人公の健一は最寄り駅牛久を避けて佐貫駅に降り立っている。
 関東鉄道竜ヶ崎線は佐貫〜竜ヶ崎間、途中一駅という僅か8kmの短いローカル鉄道で、この小説の当時は、竜ヶ崎鉄道といって二両連結の蒸気機関車が走っていた。そして、当時の佐貫駅は常磐線の改札口と竜鉄の改札口が一直線になっていて、常磐線が到着すると、二つの改札口を結ぶ人の列が出来て、なかなか竜鉄の方へと進めなかった。竜ヶ崎は、稲敷地方の中心的な商都として古くから賑わっていて、そのため佐貫駅に列車が着くたびに改札付近は人がごった返ししていたのである。その中には商人もいれば、買い物帰りの主婦や学生、それらに混じって、要吉と同じ復員兵もいただろう。駅のベンチに腰掛けて、そんな光景を暫く眺めていた要吉であった。

国道越しに牛久沼が光って見えた。沼は夕焼け空をのみ込んで空より朱い。そして沼を見下ろすかにそびえる筑波は今日も紫-----。

"光る沼=@この表現は、住井すゑが小説の中で何度も使っている。牛久沼のことを"大地のえくぼ≠ニ称した住井すゑ。牛久市城中の彼女の自宅裏庭から見下ろす朝明けやの牛久沼はたしかに"光る沼≠ナあり、えくぼのような微笑でもある。一方、落日の牛久沼も"光る沼≠フ表現にぴったりで、要吉が、3年ぶりに見る牛久沼、それは国道6号線沿い、鶴舞付近から見る夕日に反射した光る沼だった。とにかく、夕日が反射した牛久沼は美しい。

要吉は重い腰を上げたのだが、膨れる不安に一足毎にしゃがみ込む。懐かしい牛久沼を見ても、今の要吉には恨めしく映るだけだった。

牛久沼の画像を見る 
龍ヶ崎市庄兵衛新田から見る牛久沼の夕焼け