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鬼平犯科帳、雲竜剣四 

この物語と牛久沼の関わり三

水戸街道
 牛久沼に沿った道へ左馬之助が出たとき、夕闇はかなり濃くなってきていた。
 農夫も旅の侍も、もう一人の客も、散り散りに、どこかへ行ってしまい、左馬之助の前を旅の老爺がひとり、すいすいと歩いている。
 牛久沼に沿った道が、ゆるやかに右に逸れると、左側に、木立に包まれた小高い丘が見える。むかし、あのあたりに牛久の城が築かれていたのだという。(原文より)

常陸国の第一歩を踏んだ旅人は、まず最初に小通幸谷村の観音さまが目に止まる。正確には『清水山慈眼院十一面観世音』といって、眼病に霊験があると信じられ当時は参拝者が多かった。それはさておき、水戸街道を牛久方面に向かうには、牛久沼に沿った道へ出ないで、ゆるやかに右に逸れる。すると左側前方に小高い丘が見え、まもなく若柴宿に入る。残念ながら原文では若柴宿に関する記載はいっさい無い。この後.、左馬之助はくせ者に狙われるのであるが、ちょうど若柴宿を過ぎたあたりと思えばいいだろう。左側の木陰から街道筋へ躍り出た人影が、突然左馬之助へ斬りかかるのである。

まとめ
左馬之助がくせ者に狙われる直前に、実は鍛冶屋の助治郎から声を掛けられる。ここで左馬之助が動揺したため、物語の展開が変わってしまった。水戸街道を北上し、水戸の城下で合鍵を作る予定だった助次治郎は、危険を察し、江戸へ引き帰してしまった。結局予定を変更して、その後東海道を上り、小田原城下にて合鍵を作るのである。つまり、このことによって、物語の中心が牛久沼から、江戸市中、東海道へと移ってしまった。その後も左馬之助は牛久沼周辺を探索するのであるが、その詳細は伝わってこない。
 最後に長谷川平蔵はこう纏めている。「今度の仕事は、おぬしと出会った鍵師の老爺が、あわてて江戸へ舞いもどったことから、足がつきはじめた。ありがとうよ、左馬。もつべきものは友だちだのう」と左馬之助に皮肉をこめて。

 

最後に

この物語は「鬼平犯科帳」初の長編であり、文春文庫第15巻目にあたる。全部合わせてもこのシリーズの中で長編は4編しかない。それだけに「鬼平犯科帳」の中でも「雲竜剣」は貴重な存在と言えるだろう。
しかし、やはりというか、このシリーズは短編の方が話の展開が小刻みで冴えている。確立された短編シリーズの中において「雲竜剣」は数少ない長編で、これまでの展開とは違って話を引き延ばすために、あれやこれやと無駄な挿入部分が多くなっている。そう思うと、この長編「雲竜剣」における牛久宿及び藤代宿の存在は、単に物語を引き延ばすために挿入されたと部分と思えてしまう。ただ推理時代劇と考えるなら読者を翻弄させるために「牛久沼」の存在感は充分あったのだが。
 
 辛口の文章となったが、私は「鬼平犯科帳」をこよなく愛している。