沢 ゆき三
沢ゆきの短詩二
なるしゆす
水の接吻に
燃えたぎる炎がある
ひらめく水の接吻に
若さをみんなささげた 無こそ
偽らない存在なのだ
岸の なるしゆす なるしゆす
黄金の花を映して
ゆれて行く水を たれが
とめよう
"求めゆく姿≠ヘ美しい
"さ迷える姿≠ヘ美しい
とまらない美こそ
「いのち」である
葦の葉ずれ一
人間が嫌になってから
沼が私を 愛してくれた
溜息をこめて
幻の沼の深い笑窪を吸い揚げる
葦は静かな風を起すので
沼には寂しい昂奮がこぼれるから
鷲草の露の慓も
ふりおとさないように 私は歩く
在りながらに汚れた人間の遺伝.
すべない怖を抱いて 私は
沼の暗示を 何時から探しはじめたか
"わが生きものの≠ネやみ
招への妄想は
ゆきつく"天≠烽ネく
かえりつく"土≠烽ネい
沼は だまって湛えている
沼は だまって流れている
遠く限りなく
葦の葉ずれ二
残り少ないかげを包み
あけたままの瞳
空を 綿雲がながれて
ほんの乏しい瞳の影まで 渫おうとする
沼は葦の伸びる 柔らかい季節なのだ
ピシ ピシと そして
一ふしずつ
lきめこまかいひとりでの音につれて−
万象は連綿と 透明に水の中で
ゆれている
鎮まらない鼓動に似て
筑破も紫に落ち込む沼の気流がたちこもり
その向に疵のように懸る私の唇許りの画に
蒼い曲がうるんでいる
のこらずを奪られた私を遠くにおいて
「沼の詩人澤ゆき全詩集 沼、一」より