平成十六年七月二十五日発行

これが竜ヶ崎の民俗芸能「撞舞」の妙技

 ああ、雨が恋しい竜ヶ崎の夏。
 天高く撞いた(つらぬいた)一本の柱に舞男がよじ登り雨乞いをする。それは、見上げること14mの高所で体を反らしたり逆立ちしたり、まさに命がけの演技だ。
 連日30度を超す真夏日が続く日本列島。ご当地関東地方の竜ヶ崎も一粒の雨さえ降らない猛暑が続いている。そんな真夏の7月25日、市内根町の通称撞舞通りにて、雨乞いと豊作を祈念した伝統民俗芸能・撞舞が行なわれた。 

 竜ヶ崎の撞舞は、関東三大奇祭の一つで、400年の歴史を誇り、国選択無形民俗文化財に選定される伝統芸能である。通例7月25日〜27日開催の八坂神社祇園祭の最終日に行われる。(今年度は日程変更となり最終日が25日となった。)笛や太鼓のおごと囃子に合わせ、唐草模様の衣装を身に纏った舞男が高さ十四bの柱(撞柱)に登る。舞男は柱の頂上に設けられた80cm大の円座で、あお向けになったり、逆立ちしたりと命がけの妙技を披露。そして円座の上に立ち上がり四方に矢を放つ。その矢を手にした者は1年間無病息災と言われている。舞男はその後、頭を下にして斜めに張った綱を途中まで滑り降り、ここで最後の妙技を行なう。そしてふたたび撞柱の頂上に登り、ゆっくりと地上に降りる。     撞舞の起源については諸説あるが、室町時代に中国から伝来した散楽の流れを汲む蜘蛛舞からきたものといわれている。その舞が八坂神社の祭礼と結びつき、五穀豊穣、つまり雨乞いや豊作祈願の舞として行なわれるようになったのであろう。
 他の説として、船の往来が頻繁だった昔の利根川。いつしか利根川を行き来する船上の帆柱で曲芸が行なわれるようになった。それが地上にも伝播し利根川流域各地で行なわれるようになった。今日では竜ヶ崎のほか、千葉県野田市でも津久舞と言う伝統芸能が受け継がれている。撞と津久、字が違っていても起源は同じであろう。

 



貝原塚おごと囃子(龍ヶ崎市指定無)形民俗文化財

 真夏の太陽が西方から照りつける午後5時。小学生が奏でる笛や太鼓のリズムに乗っておかめひょっとこのユーモラスな舞が始まる。前座といっては失礼だが、これは撞舞では欠すことの出来ない民俗芸能貝原塚おごと囃子である。
 そもそも、撞舞が八坂神社より1kmほど離れた根町で行なわれるようになった理由は、その昔、竜ヶ崎の村人が貝原塚村の八坂神社から御神体を奪って馬を走らせて根町に迎え、ここ(般若院境内)に、八坂神社を祀ったという故事によるらしい。
 なるほど、これは私の想像であるが、貝原塚の村人たちにとって御神体が奪われてさぞ無念だっただろう。撞舞で奏でるおごと囃子の笛や太鼓の音が、その無念さ代弁しているのだろうか。この囃子が撞舞の400年の伝統とともに歩んだ因果関係がそこにあるような気がした。


龍神太鼓

こちらは龍神太鼓保存会による和太鼓の演奏。龍が舞い上がるが如く激しく鼓動する太鼓のリズム。今では市内の行事イベントでは欠かせない存在となっている。

 


ドラゴンサミットの皆さま

 おやおや、こちらは何やら格式張った人達がずらり並んで?
 どうやら、明日(7/26)開かれるドラゴンサミットの為、全国から集まった竜の付く市町村の代表者の皆さまだ。遠路よりご苦労様。
 
 ドラゴンサミットとは「龍」「竜」の字がつく市町村が一同に集り、明日の町づくりのための文化交流を行なう場。今年は龍ヶ崎市がホスト役を勤めた。

 

いつもご苦労さま。ミス乙姫・龍ヶ崎観光親善大使のお二人。今年のミス乙姫は特別お美しい。その美しさ甲乙付けがたく、お二人とも乙姫とは謙虚?

 

午後6時、まだまだ明るい真夏の夕暮れ時。お清めの終わった舞男。さあ、いよいよ登るぞ!と、緊張感が走る。
貝原塚おごと囃子の笛や太鼓のリズムに乗って舞男は撞柱を一歩一歩天空に向かって登り始める。舞男は、今年も龍ヶ崎鳶職組合の谷本仁さんが勤めた。

 

ごらんの通り命綱もなく、見ていてとても危険と思われる演技が繰り広げられる。舞男は頂上近くまで辿り着いたとたん、中腹まで落っこちたふりをする。それは卓越した演技であるが、見守る観衆はハラハラドキドの連続である。

いよいよクライマックス。地上14mに設けられた円座で、うつぶせになったり逆立ちをしたり舞男の妙技が繰り広げられる。そして地上から弓矢を取り寄せ、東西南北4方に弓を射る。その矢を拾った者は1年間幸運と言われているだけに、矢の行方を見守る観衆も真剣だった。

撞柱を固定するため斜めに強く張られた3本の綱。その東側に張られた1本の綱を、頭から逆さまに中腹まで滑り降りる舞男。私たちの真上での妙技は演技者の表情がよく分かる。舞男の緊張感や興奮が手に取るように分かった瞬間だ。

 

 あなたが主役。演技を終えた舞男・谷本仁さんを取り囲む報道陣。
 今年はどこかのテレビ曲の取材があったようだ。何を話しているのか聞き取れなかったが、無事に終えてほっとした表情が印象的であった。

 

  根町で行なわれた撞舞は午後7時に終わったが、八坂神社の祭礼はまだまだ続いた。わっしょい、わっしょい御輿だわっしょい。いつもは静かな竜ヶ崎の商店街も、この3日間だけは近隣各地から老若男女が集まり真夏の祭典を楽しんだ。特に今日(7/25)は祭りの最終日。撞舞を見終わった見物人も押し寄せ、竜ヶ崎駅から続く約2kmの歩行者天国は人人人、人で溢れた。